私がアメリカで14年間働いて、唯一変わらなかった信念
私がアメリカに渡ってから14年が経ちました。
この14年で、多くのことが変わりました。一緒に仕事をしてきたクライアントも、関わったプロジェクトの規模も、自分自身のスキルも、ビジネスへの理解も。北米市場そのものも、デジタル化・SNSの台頭・パンデミック・AIの台頭と進歩を経て、大きく様変わりしました。
変化の連続の中で、しかし一つだけ、変わらなかったものがあります。
「人と人の間に、本物の出逢いを生み出すこと」への信念です。
この記事は、その信念がどのように生まれ、どのように試され、そして今どのような形で私たちの仕事の核心にあるのかを、できる限り正直に書いたものです。
アメリカに渡った頃の話
アメリカでの仕事を始めた当初、私は「仕事ができる人間」になることに必死でした。
英語で交渉する。現地のクライアントに認められる。大きなプロジェクトを動かす。数字を出す——これらを達成することが、当時の私にとっての「成功」でした。そのために必要なスキルを身につけ、ネットワークを広げ、実績を積み上げていく。ある意味、非常にシンプルで明快な目標です。
実際、その努力は結果に結びつきました。クライアントからの信頼を得て、規模の大きい仕事を任されるようになり、北米の広告業界の中でポジションを築いていきました。
しかし、ある時期から、違和感を覚えるようになりました。
「うまくいった仕事」と「良い仕事」の違い
広告の仕事をしていると、「うまくいった仕事」の定義が明確です。素晴らしい展示会ブースができた。最高のステージを回せた。クリック率が上がった。リーチが拡大した。売上が伸びた。クライアントが満足した——これらの数字や評価が「成功」の証として積み上がっていきます。
私も、そういう「うまくいった仕事」をたくさん経験しました。
ところが、プロジェクトが終わって少し時間が経った後、ふと「あの仕事は本当に良い仕事だったか」と自問すると、答えに詰まることがありました。
数字は出た。クライアントは喜んでいた。しかし、そのクライアントのビジネスが本当に良くなったかどうか、確信が持てない。その先に実際にいる消費者・バイヤー・パートナーと、本物の接点が生まれたかどうか、わからない。
広告という仕事の性質上、「届けた」ことと「伝わった」ことの間には、大きな溝があります。リーチは数字として測れますが、「本物の共鳴」は数字では見えません。私はだんだんと、数字の裏側にある「本物の共鳴」の方が気になるようになっていきました。
転機になった、ある小さな出来事
信念が明確に言語化されたのは、一つの小さな出来事がきっかけでした。
ある日本の中小企業が、初めてアメリカの展示会に出展するサポートをしたときのことです。規模は小さく、予算も限られていました。大手の派手な出展と比べれば、ブースは地味なものでした。
しかし、その会社の代表者が会場でバイヤーと話す姿を見ていて、私は何かを感じました。彼は流暢な英語を話すわけではありませんでした。プレゼンが特別に洗練されていたわけでもありません。しかし、自分の製品への純粋な誇りと、相手への真摯な興味が、言葉を超えて伝わっていた。
会期の最終日、一人のアメリカ人バイヤーが彼のブースに戻ってきて、「もう少し詳しく話を聞かせてほしい」と言いました。後日、それが長期的な取引につながったことを私は知っています。
「この出逢いは、広告で作ることはできなかった」と思いました。
その代表者の、飾らない誠実さと、製品への本物の誇りが、バイヤーの心を動かした。私が提供できたのは「場」だけです。しかし「場」があったから、出逢いが生まれた。この構造が、私の中で何かを変えました。
「本物の出逢いを生み出す」とはどういうことか
この経験以来、私の仕事への向き合い方が変わりました。
それまでの私は「どうすれば数字が出るか」を考えていました。それ以降の私は「どうすれば本物の出逢いが生まれるか」を考えるようになりました。
この二つは、似ているようで、まったく違う問いです。
「数字を出す」ための設計は、効率を最大化しようとします。最も多くの人にリーチする方法、最も低コストで転換率を上げる方法——ここには「相手を理解する」というプロセスが、必ずしも必要ではありません。
「本物の出逢いを生み出す」ための設計は、相手の理解から始まります。この人は何に悩んでいるか。何に価値を感じるか。どんな文脈の中で生きているか。この問いなしに、本物の共鳴は生まれません。
もちろん、これは数字を無視するということではありません。本物の共鳴が生まれれば、数字はその結果としてついてきます。しかし数字だけを追えば、本物の共鳴は生まれにくい——この順序が重要なのです。
14年間で最も印象に残っている言葉
長い時間の中で、様々なクライアント・パートナー・現地のビジネスパーソンと話してきました。その中で、今でも時折思い出す言葉があります。
あるアメリカ人の起業家が、ビジネスの話の中でふと言った一言です。
People don’t buy what you do, they buy why you do it.
—— 人はあなたが何をやっているかではなく、なぜやっているかを買う
この言葉は、サイモン・シネックの有名なTEDトークにも登場するものですが、ビジネスの現場で実際にそれを体現している人から聞いたとき、その重さが違いました。
北米市場で長く成功しているビジネスには、「なぜ自分たちはこれをやっているか」という問いへの、明確な答えがあります。製品やサービスの「何を」「どのように」は変わっても、「なぜ」の部分は変わらない。そしてその「なぜ」に共鳴した人たちが、長期的な顧客・パートナー・ファンになる。
この構造を見続けてきたことで、私自身の「なぜ」も明確になっていきました。
私がこの仕事をしている理由は、北米市場での「本物の出逢い」を生み出すことが、日本の企業・ブランド・想いを世界に届ける最も確かな方法だと信じているからです。
何度も試された信念
正直に言えば、この信念は何度か試されました。
「もっと効率的にやれ」「数字が伴っていないじゃないか」「クライアントが言う通りにやればいい」——こういう声は、仕事をしていれば必ず出てきます。
短期的な数字を優先するか、長期的な関係の質を優先するか。クライアントの言う通りに動くか、本当に良いと思う方向を伝えるか。効率的な「売る」設計をするか、時間のかかる「出逢う」設計をするか。
これらの問いの前に立ったとき、私は毎回「本物の出逢いを生み出す」という信念に戻りました。それが正解だったかどうか、すべての場面で確信があったわけではありません。しかし14年間を振り返ったとき、この信念に従って動いた仕事の方が、時間をかけて良い結果につながっていたと感じています。
信念とは、うまくいっているときに持つものではなく、迷ったときに戻る場所だと思っています。
株式会社つむとを立ち上げた理由
株式会社つむとを立ち上げたのは、この信念を、より多くの日本企業・ブランドの北米進出に活かしたいという思いからです。
日本には、世界に届けるべき優れた製品・技術・文化・想いが、まだまだたくさんあります。しかしその多くは、届け方を知らないまま、北米市場の入り口で止まっています。
「どうすれば北米で売れるか」を考えるよりも先に、「どうすれば北米で本物の出逢いが生まれるか」を一緒に考えてくれるパートナーが、日本企業には必要だと思っていました。私がなれるとしたら、そのパートナーだと思いました。
「つむと」という名前は、「紡ぐ人」を意味しています。クライアントの想いと、北米市場の人々の間に、一本の強い糸を紡ぐ——それが私たちの仕事の本質です。広告を出すことも、イベントを作ることも、営業を代行することも、すべてはその「紡ぐ」という行為のための手段に過ぎません。
変わったこと、変わらなかったこと
14年間で変わったことをもう一度振り返ると、スキル・知識・ネットワーク・事業の形——これらはすべて変わりました。変わるべきものが変わったと思っています。
変わらなかったのは、「本物の出逢いを生み出すことへの信念」と、「日本の想いを世界に届けたいという気持ち」です。
おそらく、これからも変わらないでしょう。なぜなら、この二つが私にとっての「なぜこの仕事をしているか」の答えだからです。
この記事を読んでいる方へ
もし今、北米進出を考えているなら、一つだけ問いかけさせてください。
「あなたはなぜ、北米に出たいのですか?」
売上を伸ばしたいから、という答えも正直でいいと思います。しかしその奥に、もう少し深い何かがあるはずです。自分たちの製品・サービス・想いを、より多くの人に届けたい。日本にあるものを世界に伝えたい。新しい出逢いの先に、まだ見えていない可能性を開きたい——そういう「なぜ」を持っている方と、私たちは一緒に仕事がしたいと思っています。
「なぜ」が明確であれば、「何を」「どのように」は一緒に考えられます。
ぜひ一度、その「なぜ」を聞かせてください。
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優れた技術、洗練されたデザイン、日本市場での圧倒的な実績ーー。「これだけのものがあれば、アメリカでも必ず通用するはずだ」。そう意気込んで北米市場に挑戦する日本企業は後を絶ちません。しかし、その多くの企業が数年足らずで多額の投資を失い、失意のうちに撤退していくのが冷酷な現実です。
なぜ、彼らは失敗したのでしょうか?
本書では、私が現地で14年間ビジネスを経験する中で目撃してきた、日本企業が陥りがちな「40の失敗パターン」を3つのカテゴリーに分類し、それを回避するための現実的な処方箋をまとめました。
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