インバウンド対応で英語が必要な場面ランキングと企業が取るべき対策
訪日外国人数が回復・拡大を続けるなかで、「英語対応をどうにかしなければ」という課題を感じている企業・店舗・施設の担当者は少なくありません。
しかし「英語対応」と一口に言っても、その中身は場面によって大きく異なります。メニューの英語表記なのか、スタッフによる接客対応なのか、ウェブサイトの英語化なのか、予約システムの対応なのか——すべてを一度に整えようとすると、コストも労力も膨大になります。
限られたリソースの中で最大の効果を出すためには、「どの場面での英語対応が、顧客体験と売上に最も影響するか」を正しく理解することが先決です。
私はアメリカで14年間広告代理業務に従事し、現在は日本を訪れる英語圏の旅行者・ビジネスパーソン向けのインバウンドマーケティング支援も行っています。その経験をもとに、インバウンド対応で英語が必要な場面を重要度順にランキングし、それぞれの具体的な対策をお伝えします。
前提:インバウンド客が「英語対応の不備」に感じること
対策を考える前に、英語圏のインバウンド客が実際に「困る」「不満を感じる」場面を理解しておくことが重要です。
訪日外国人へのヒアリングや各種調査で繰り返し挙げられる不満は、以下のようなものです。
- ウェブで調べても日本語しか情報がない
- 予約しようとしたがシステムが日本語のみで完結できなかった
- 店舗に入ったが何も英語表記がなく、何を注文すればいいかわからなかった
- 質問したいことがあったが、スタッフと英語でコミュニケーションが取れなかった
- 支払い方法・営業時間・持ち物などの情報が英語で得られなかった
これらの不満は、単に「不便だった」という体験にとどまらず、Google・TripAdvisor・SNSでのネガティブな口コミとして拡散されるリスクを持っています。逆に、英語対応が丁寧にできている施設・企業は、英語圏の口コミで高評価を得やすく、それがさらなるインバウンド集客につながる好循環を生みます。
英語対応が必要な場面ランキング
第1位|ウェブサイト・オンライン情報(検索・予約前)
影響度:★★★★★
インバウンド対応において、最も優先度が高いのはウェブサイトの英語対応です。
理由はシンプルです。英語圏の旅行者・ビジネスパーソンは、日本に来る前に必ずオンラインで情報収集をします。Googleで検索し、ウェブサイトを確認し、SNSをチェックし、予約サイトで口コミを読む——この段階で英語情報が得られなければ、そもそも来店・来訪の選択肢に入らないのです。
どれだけ素晴らしいサービスや商品を提供していても、英語のウェブ情報がなければ、英語圏の潜在顧客には存在していないのと同じです。
取るべき対策
- 英語版ランディングページの作成:全ページの英語化が難しい場合は、まず「英語圏の訪問者向けの1ページ」を作ることを優先してください。基本情報(営業時間・アクセス・サービス概要・予約方法・料金)が英語で得られるだけで、大きな差が生まれます。
- Google ビジネスプロフィールの英語対応:GoogleマップやGoogle検索での表示情報を英語でも登録・管理する。特に営業時間、写真、説明文は英語でも入力しておくことが重要です。
- 予約・問い合わせ窓口の英語対応:予約フォームやメール問い合わせが英語で使えるか確認してください。日本語のみのフォームは、英語圏からの予約機会を大きく損ないます。
第2位|SNS・口コミプラットフォームでの情報発信
影響度:★★★★☆
英語圏の旅行者が情報収集に使うプラットフォームは、日本人のそれとは異なります。
TripAdvisor、Google Maps のレビュー、Instagram、そして近年はTikTokが英語圏のインバウンド集客に大きな影響を与えています。これらのプラットフォームでの英語情報の有無・質が、実際の来訪数に直結します。
取るべき対策
- TripAdvisor・Google Mapsのオーナー登録と英語対応:まだオーナー登録をしていない場合は最優先で対応してください。英語での返信・説明文の追加が可能です。
- 英語コメントへの返信:英語での口コミ・コメントに英語で返信することは、プラットフォーム上での評価向上に加え、「英語対応に積極的な施設」という印象を与えます。
- InstagramやTikTokでの英語キャプション:日本語投稿に英語キャプションを追加するだけで、英語圏ユーザーへのリーチが大幅に拡大します。英訳はシンプルで構いません。
第3位|店頭・施設内のサイン・メニュー表示
影響度:★★★★☆
来店・来訪した後の体験は、リピートと口コミに直結します。店頭・施設内での英語表示は、「来てしまった後」の体験品質を左右します。
取るべき対策
- メニュー・料金表の英語版用意:飲食店であれば英語メニューは必須です。ただし機械翻訳をそのまま使った不自然な英語は逆効果になることがあります。英語ネイティブによるチェックを受けた翻訳を用意してください。
- 案内サイン・注意書きの英語化:トイレの使い方、館内ルール、禁止事項などは、誤解が生じやすい情報です。英語での案内表示を設けることで、スタッフへの問い合わせ件数を減らし、顧客体験も向上します。
- QRコードの活用:英語メニューや詳細情報をQRコードで提供する形式は、印刷コストを抑えながら情報量を確保できる現実的な方法です。スマートフォンで読み込めば英語の詳細情報にアクセスできる設計は、英語圏の旅行者にも親しみやすいです。
第4位|スタッフによる接客・口頭コミュニケーション
影響度:★★★☆☆
「英語対応」というと、多くの企業が最初に「英語を話せるスタッフが必要」と考えます。確かにそれが理想ですが、スタッフ全員の英語力を一朝一夕に上げることは現実的ではありません。
重要なのは、スタッフが「英語で流暢に話せる」ことよりも、「英語圏の来訪者が安心できる対応をできる」ことです。
取るべき対策
- 定番フレーズの習得:「いらっしゃいませ(Welcome!)」「少々お待ちください(Just a moment, please.)」「こちらになります(Here you go.)」「ありがとうございます(Thank you very much.)」など、接客で頻繁に使う10〜20フレーズを全スタッフが使えるようにするだけで、印象は大きく変わります。
- 英語対応スタッフの「旗振り役」を決める:全員に英語を求めるのではなく、「英語対応ができる人」を1名指定し、英語での問い合わせはその人に繋ぐフローを作る方が現実的です。
- 翻訳アプリの活用を標準化する:Google翻訳やDeepLをスタッフのスマートフォンにインストールし、使い方を共有しておく。「英語は話せないが、翻訳アプリを使って丁寧に対応しようとしてくれた」という体験は、多くの外国人旅行者にとって好印象になります。
第5位|予約・決済・事後フォロー
影響度:★★★☆☆
来訪前後のプロセスにおける英語対応も、顧客体験全体に影響します。特にBtoB・高単価サービスでは、事後のフォローアップが長期的な関係構築に直結します。
取るべき対策
- 予約確認メールの英語対応:予約受付後に送る確認メールを英語版で用意しておく。アクセス情報・持ち物・キャンセルポリシーを英語で明記することで、来訪当日のトラブルを減らせます。
- 決済手段の多様化:クレジットカード・タッチ決済・QRコード決済など、現金以外の決済手段に対応することは、英語圏の旅行者の利便性向上に直結します。「現金のみ」の表示も英語で明記しておくことで、トラブルを防げます。
- 英語でのサンキューメール・フォローアップ:来訪後に英語でのお礼メールや、口コミ投稿の依頼(英語)を送ることで、TripAdvisorやGoogle Mapsでの英語レビュー獲得につながります。
優先順位のつけ方:リソースが限られている企業へ
「すべての対策を一度に行うのは難しい」という企業がほとんどです。そこで、リソースに応じた優先順位の考え方をお伝えします。
まず着手すべき「最低限の3点セット」
① Googleビジネスプロフィールの英語情報を整える
無料でできて、英語圏からのオンライン検索に直接影響します。営業時間・アクセス・説明文・写真を英語でも設定してください。所要時間は数時間程度です。
② 英語対応の1枚ペーパー(または1ページのウェブページ)を作る
来店・来訪した英語圏のお客様に渡せる英語の基本情報シート、またはQRコードでアクセスできる英語ランディングページを1枚用意します。
③ 英語での口コミへの返信を始める
TripAdvisorやGoogleMapに英語の口コミが届いていたら、英語で返信を始めてください。既存のレビューへの返信から始めることができ、コストはゼロです。
次のステップとして検討すること
上記3点が整ったら、次は英語版ウェブページの充実、英語メニューの作成、SNSでの英語キャプション追加などに順次取り組んでいきます。
インバウンド対応は「翻訳」ではなく「コミュニケーション設計」
最後に、インバウンド対応において最も重要な視点をお伝えします。
英語対応を「日本語の情報を英語に翻訳する作業」として捉えると、どうしても表面的な対応にとどまります。本当に効果的なインバウンド対応とは、英語圏の来訪者が「どんな情報をどのタイミングで必要としているか」を理解したうえで、その体験全体を設計することです。
例えば、英語圏の旅行者が日本の温泉旅館を検索する際に知りたいのは、「お湯の成分」ではなく「タトゥーがあっても入れるか」「チェックインの手順はどうなっているか」「食事はアレルギー対応できるか」といった、来訪前に不安になりがちな具体的な疑問です。これらを先回りして英語で答えているウェブサイトと、そうでないウェブサイトでは、予約率に大きな差が生まれます。
「何を英語にするか」ではなく、「英語圏のお客様が何を知りたいか」を起点に設計することが、インバウンド対応の本質です。
まとめ
インバウンド対応で英語が必要な場面を重要度順に整理しました。
- ウェブサイト・オンライン情報(★★★★★) ── 来訪前の情報収集段階。ここが最優先
- SNS・口コミプラットフォーム(★★★★☆) ── TripAdvisor・Google・Instagramでの英語情報
- 店頭・施設内のサイン・メニュー(★★★★☆) ── 来訪後の体験品質に直結
- スタッフによる接客(★★★☆☆) ── 流暢さより「安心感」を優先した対応を
- 予約・決済・事後フォロー(★★★☆☆) ── 来訪前後の体験を丁寧に設計する
リソースが限られている場合は、Googleビジネスプロフィールの英語対応・英語1ページの情報整備・既存口コミへの英語返信の3点から始めてください。
株式会社つむとについて
私たちつむとは、インバウンド向けの英語コンテンツ制作・ウェブマーケティング支援を含む、北米市場向けの広告・マーケティングを専門とする会社です。「英語対応を強化したいが、何から手をつければいいかわからない」という企業の初期相談から、英語コンテンツの制作・運用まで、幅広くサポートします。